昭和の想ひで 六 靴隠しのこと

靴隠し しゅうれんぼ
橋の下のネズミが
草履を咥えてちゅっちゅくちゅ
ちゅっちゅく饅頭は誰が食た
誰も食わないワシが食た
表の看板三味線屋
裏から廻って三軒目
いち、にっ、さん

靴隠しのうた

靴隠しという遊びはお気に入りだった。知らない人のために少し説明しておく。
この遊びは2人以上でおこなうものだが、多くの子ども時代の遊び同様人数が多いほど楽しい。まずメンバーの靴を片方ずつ集めて並べる。それからメンバーの中の誰かが上記の文句を節をつけて歌いながら、並べられた靴をリズムに合わせて順番に指差していく。歌が終わった時に指さされている靴の持ち主が鬼となる。鬼はかくれんぼの時のように目を伏せて、良いと言われるまでメンバーが自分の靴を隠す間待っている。最終的に鬼がすべての靴を探し当てるというゲームである。靴の隠し場所が人それぞれバラエティーにとんでいてとても意外性があるゲームだ。

僕は団地の縦割りガキンチョ集団の中でこのゲームをやっていたので、靴の隠し場所は団地の階段の列1列分がエリアだった。今となっては団地の階段の一体どこに靴を隠す場所があったのかあまり思い出せないけれど、探すのに大変困った場所をいくつか覚えている。

1番ずるくて困ったのは、自分の家の中に隠すやつだ。団地だから階段を上っていくと当然角家の扉が並んでいる。その列の中に自分の家があると、扉を開けた玄関のところに靴を置いてしまう奴がいた。

今の感覚だとそれはもう隠すという感じではなくなってしまうが、当時はどこの家も扉に鍵をかける習慣はなかったし、靴が隠されている、探さなければいけない、という気持ちであれば友達の家の扉を勝手に開けることも特段の勇気を必要としなかった。

扉を開けられた家の方でも子どもたちのワーワー騒いでいる声が聞こえていれば、子どもが勝手に開けたんだろうと理解して別に気にも留めなかった。もしも例えば扉を開けた瞬間に玄関先でその家のおばさんがムームー姿で尻をまくっていたとしても、「いや!もう!勝手に戸開けなや!」「ごめん!おばちゃん。靴隠ししてんねん。へへ。」と言うような話で終わっていたろう。

各玄関扉の上に水道配管とメーターの収納ボックスが設置してあるのだけれど、その上に隠すパターンもあった。ボックスと天井との隙間に突っ込む感じなのでなかなか発見できない。だがこれは階段を降りるときにその隙間と目線が合う瞬間がある。

1番すごいなぁと思ったのは、団地の外壁に電気の配線のボックスがあるんだけど、その上に靴が隠されていたことがあった。これは階段の踊り場の柵をこえて外側をつたって靴をおかなければいけない。まるで泥棒だ。考えてみると大変危険な行為だ。こんなところに靴を隠したのは件の僕のヒーローたかちゃんである。

靴隠しができたのはガキンチョ集団が解散するまでのわずかな期間である。それ以来したことがないので、およそ40年以上も前の遊びである。にもかかわらず、靴隠しの歌は一言一句間違えずに覚えているのだから、三つ子の魂百までと言うのは本当なんだろう。遠い昔の只の想ひで話である。

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